集中治療室シンドローム


明くる日の4月23日午後

ICU (集中治療室)のベッドに拘束されている状態で、術後、初めて目を覚ます。

顔を傾けたら妻と兄の顔がいきなり飛び込んで来た...
それらを認識した事によって、

俺は、 まだ、 生きていたんだ...... と、 自分の生存を確認する事が出来た。

余談でありますが、立花隆氏によると己の死の確認行為は一人では、不可能である... と、 この時ばかりは妻や兄の存在を認識した事によって、死では有りませんが、生として自分はまだ生きてたんだと確認する行為が出来たと思いました。

気管には酸素チューブが挿管されている為に、声を出してみようと試してみても声が出てこないので、目配りで自分の意識がある事を伝えたつもりであったが二人は理解できてくれただろうか...

数分間は目が覚めていたか...
その後再び深い眠りについたようで、ICUの中で私はそれから1週間(自分ではその位と思っていた)もの間、ほとんど記憶が無いまま生き続ける事となった。
(この写真は新東京病院とは関係有りません)

5月1日(土) 1週間の眠りから覚醒する事が出来たようだ

妻に聞くと3日目に酸素マスクに切り替えてからというもの、苦悶し続け無意識のうちに酸素マスクを外してしまい、また最初の気管挿管方式に戻されたが、暴れると気管へのダメージが危ぶまれるという事で、強制睡眠状態にされて肺の再生を行うために酸素が回るまで拘束されたらしい。
後で知ったのだがショック肺を併発すると高い確率(40%位)で死亡するらしい。

意識は大分はっきりとしてきたのではあるが、メガネも、時計も身に付けていない為に、朝なのか、夜なのか、自分の状態はどうなっているのかがさっぱり判らないのと、麻酔がまだまだ抜けていないせいでしょうか、集中治療室である事は判るんですが、男女の看護師さん達がガヤガヤ詰めている所には、酒やら、ご馳走やらが一杯並べられており、楽しそうにパーテイしてる(様に見えた)。

こんな集中治療室内で、パーティやら、ゲームとかを皆が楽しんでやってる様なトコにいたら、俺はこのまま死んでいくかもしれん...... 

そうだっ! 最初に救急車で運ばれた草加市立病院にまずは電車に乗って逃げよう!
取り敢えずここから逃走するのに必要なメガネと腕時計と携帯電話と冷たいドリンクを買う為の小銭を俺に渡してくれ! と周囲の先生・看護師達に気付かれないように(先生、看護師にはみんな聞こえてたと思う) そっと妻に伝えたのだが、”貴方、そんな体で、しかもひとりで、電車で、行けると思ってるの!?” 
...この時点で、妻は “夫は頭に異常を来している...” と、絶望を抱いたらしい(w)
(手術後ですから当然の事ながら色んなチューブは体に挿管されているし、ベッドから起き上がる事も出来ない状態でありながら、こんな行動に出ようとしていたんですから気が狂ったと思われても無理無いです) 

気管挿管を止めてから酸素マスクを強制装用されるが、幾種類かの形状変更品を試され(ほとんど試供品サンプルの実験台の様 W)、結局、至上最悪の顔面密着タイプ呼吸時抵抗過負荷最大型(?)が選択され、吸う、吐く、の動作をする事が物理的に不可能としか思えない、苦しくて、苦しくて、まさに拷問としか言いようの無い苦痛がその後、ICUに居る間続いたのでしたが、この酸素マスクでの吸引が入院中の中で一番苦しかった記憶として残っています。

また、この日からアルファベットの文字列が私の目の前を勝手に通り過ぎて行くという現象を確認するに至った。
同時に枕元に置いてあるハンドタオルが生き物の様にくねくねと勝手に形状を変えながらゆっくりと宙に舞い上がり遠ざかって行くという現象も確認できた。

途中で幾度と無く手で掴もうと試してみるのだが、幻覚で有るが故にアルファベットもハンドタオルも私の手から通り抜けてしまう。


集中治療室シンドロームとして、最初に目が覚めた時に天井のパンチングメタルに黒い虫がうじゃうじゃとうごめいているのを目にする患者が多いらしいが、残念ながらメガネをかけていない私としては、パンチングメタルそのものがよく見えないせいか、いつまでたっても虫が見えてこない。
その代わりとしてアルファベットと生きたタオルの幻影は見る事になったのだが、手術の後遺症として、朝から夜まで四六時中これから死ぬまで目の前から消える事が無いのかと考えたら、 絶 望 を感じてしまった。

また、夜になると集中治療室が海外のどこかの遺跡の中の室内に勝手に変化し、看護師達が祭壇に向かって黙々とお祈りを捧げているのだが、どうやらここは危険な新興宗教集団のサティアンに間違い無いと確信する。
そうか... マスコミに姿を現さなくなって久しいと思っていたら、病院と言う名の下で医療行為を行いながら腕を磨いては、巨額の収入を得ていたとは.... 恐るべし信仰宗教集団!(w)

相変わらず呼吸をする事が苦しいので、隙を見て酸素マスクを固定しているマジックベルトを緩めようとしてピリピリと音を立てると、背後から音も無く新興宗教集団の一人である女性の看護師が近づいてきて、いま 緩めたでしょ! と言った後、呼吸すら出来ない位にマジックベルトを強烈に締め上げていく。 もはや絶命を待つしかないのか...

冷静に、客観的に、どう考えてみても、ここは現実とは違う、 
そうか! これは絶対、夢の中に違い無い。
しかし、ほっぺた抓ってみたり、寝てる振りして薄目を開けて看護師の行動を何度観察してみても、明らかに、ここは病院の中じゃなくてサティアンの中なのだ。

恐怖としか言いようの無い日々が集中治療室シンドロームとして続いたのですが、私の意識の中ではこれらすべてが現実の出来事だったのです。

逃げる事も出来ない恐怖の建物の中で、私は自分の体から出ている幾本ものチューブや配管、配線でベッドに括り付けられて、この場から脱出する事も出来ずに観念しかけたのだが、最後には看護師に対して "フザケンナ! バカヤロ−−−!!” と憤慨した記憶がかすかにかすかに残っていたのでした。
(この写真は新東京病院とは関係有りません)



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